グラウンドで、子どもたちが目線を泳がせているときがあります。
ベンチから監督の声が飛んでくる。でもコーチは別のことを言っている。子どもはどちらを信じればいいかわからない。
ぼくはそういう場面を見るたびに、「一番困っているのは子どもだな」と思います。
よくある現場の光景
少年野球では、監督とコーチの考え方が食い違うことは珍しくありません。
たとえば——監督は「勝利最優先で動け」という考え方。コーチは「失敗を恐れずチャレンジしろ」という考え方。
子どもはどうするか。試合中、ベースの前で止まって、ベンチを見て、コーチを見て、また戻って——そういう「迷い」がプレーに出ます。
これを見て「やる気がない」「判断が遅い」と思う大人もいます。でも違います。ただ、混乱しているだけなんです。
子どもの中で何が起きているか
相反する指示を受け続けた子どもに、どんな変化が起きるか。
ぼくが見てきた中で気づいたのは、こういうことです。
守りに入るようになる。 どちらの指示が正しいかわからないから、「とにかくミスしない」という方向に動くようになる。大胆なプレーが消えて、消極的なプレーが増える。
自分で判断することを怖がる。 「どうせ何かを言われる」という感覚が強くなると、自分で考えて動くことに消極的になっていく。
心理的に疲弊する。 「正解がわからない状態で動き続ける」というのは、大人でもかなりのストレスです。子どもには相当な負荷になります。
親御さんがやってしまいがちなこと
こういう状況で、親御さんがやってしまいがちなのが「どちらが正しいか宣言する」ことです。
「監督の言う通りにしなさい」「コーチの言うことの方が正しいんじゃないかな」
どちらかに肩入れすることで、子どもの混乱をさらに増やしてしまうことがあります。「家ではこう言われている、グラウンドでは別のことを言われる」という状況が重なると、どこにも「信頼できる指示」がなくなってしまう。
親の本当の役割は「整理する人」
では親御さんはどうすればいいか。
ぼくが思うのは、親御さんは「答えを出す人」ではなく「整理する人」になることが大事だということです。
「監督が言ったことが正しい」ではなく、「監督はこういう考え方で、コーチはこういう考え方なんだね。どっちがしっくりくる?」と子ども自身に整理させる。
これが難しいようなら、家では「自分が考えたこと」だけを評価するという姿勢でいてほしいのです。
「コーチに言われたからこう動いた」ではなく、「自分でこう考えてこう動いた」という部分を褒める。子どもが「自分で判断する経験」を積むことが、どんな指示の食い違いにも対応できる力を育てます。
使える3つの声かけ
家での会話で使える声かけを3つ紹介します。
「今日のプレーで、自分が考えて動いた場面はあった?」
「監督に言われたから」「コーチに言われたから」ではなく、「自分が考えたこと」を意識させる問いです。
「何を意識してたの?」
アドバイスや評価ではなく、質問として聞く。子どもが自分の考えを言葉にする練習になります。
「それを続けたらどうなると思う?」
答えを教えるのではなく、子ども自身に考えさせる問いです。
監督とコーチの食い違いは、チームの問題
最後に、大事なことをひとつ。
監督とコーチの意見の食い違いは、チームの大人たちが解決すべき問題です。
子どもに「どちらが正しいか」を選ばせるのは、子どもへの負担が大きすぎます。
もし可能なら、保護者として「現場の大人たちで方針を統一してほしい」と伝えることも、子どものためになる場合があります。
子どもが安心して「全力でプレーできる環境」を作ること——これが、親御さんとコーチ・監督、みんなに共通した役割だとぼくは思っています。
うえちコーチについて
元甲子園球児(犠打9・大会記録保持)/内野守備パーソナルコーチ・スポーツメンタルトレーナー/現役消防士・3児のパパ。100人以上の選手と向き合ってきた現場経験から「すぐに実践できて、今日から変わる1つ」をお届けします。