「ボールをよく見ろよ!」
少年野球の現場でよく聞くこの言葉。言っている側の意図はわかります。でもぼくは正直、この声かけがエラーを減らすのに効果的だとは思っていません。
なぜなら、エラーが多い子は、すでに見ようとしているからです。
「見ようとしているのに見えない」問題
守備練習で繰り返しエラーをしている子を観察すると、決して「ボールを見ていない」わけではありません。
むしろ、目はボールを追っている。でも、プレーの途中で集中が切れてしまう。
「エラーしたらどうしよう」という不安が、見ようとする意識を邪魔しているんです。
恐怖を感じているとき、人間の注意は分散します。「ボールを見る」ことと「エラーしたら叱られる」という考えが同時に頭にある状態では、完全な集中は生まれません。
「ちゃんと見ろ」と言われても、できない。それは意識の問題ではなく、環境の問題なんです。
「色付きボール」で劇的に変わった
ぼくがレッスンで実際に使っている方法を紹介します。
普通のボールの代わりに、色付きのボールを使う方法です。
赤・青・黄色など、複数の色のボールを用意する。通常のゴロの練習をしながら、捕り終えたあとに「何色だった?」と聞く。
たったこれだけです。
最初は「え、何色だったっけ?」という子がほとんど。でも繰り返すうちに、子どもたちはボールに目を集中させるようになります。なぜなら「何色か答えなきゃ」という課題があるから。
「見なければならない」というプレッシャーではなく、「答えを知りたい」という好奇心が、集中を生み出します。
実際に現れた変化
この練習を取り入れると、目に見えて変化が起きます。
頭の位置が安定した。 ボールを目で追い続けることで、頭がぶれにくくなる。頭が安定すると、フットワーク全体のバランスがよくなります。
ボールをグローブに入るまで見られるようになった。 捕る直前に目線が外れていた子が、最後まで見続けられるようになります。
表情が明るくなった。 「正解・不正解」を求めない練習なので、失敗しても「あ、青だったか!」という雰囲気になる。プレッシャーが減って、守備を楽しめるようになります。
エラーが自然と減った。 「見ろ」と言われてエラーが減るわけじゃない。でも「見る理由」ができたとき、自然と見られるようになって、エラーが減っていく。
なぜ「色を答える」という課題が効くのか
少し掘り下げて説明します。
人間の集中力は「課題があるとき」に最も発揮されます。
「うまく捕れ」というのは漠然とした課題です。でも「ボールが何色か答えろ」は、明確で具体的な課題です。
具体的な課題があると、脳は自動的にその情報に集中します。「何色か」を判断するためにボールを見続けなければならない。その結果として、守備に必要な「ボールを最後まで見る」という動作が自然に身につきます。
また、「正解・不正解がわからなくてもいい」という安心感も大事です。「何色だったと思う?」と聞くだけで、答えが間違っていても責めない。子どもは「失敗しても大丈夫」という安心感の中で、思い切ってプレーできます。
親御さんへ:「見ろ」より「何色?」
家での練習でも使える方法です。
トスしたボールを捕ったあとに「今、何色だった?」と聞く——色がついていなければ、マジックで小さくマークをつけるだけでも効果があります。
または「何番?」「どの方向から来た?」という別の課題を作ってもいいです。
大事なのは「ボールを見ることに具体的な理由を作る」こと。
「ボールをよく見ろ」という言葉より、「何色だった?」という質問の方が、確実にボールを見る時間が長くなります。
まとめ
エラーが多い子に「ボールをよく見ろ」と言っても、効果は薄い。なぜなら、その子はすでに見ようとしているから。
色付きボールを使って「何色か答える」という課題を加えるだけで、子どもは自然と集中してボールを見るようになります。
練習の「仕組み」を変えるだけで、声かけを変えなくても子どもは変わる——これが、ぼくが現場で学んだことです。
うえちコーチについて
元甲子園球児(犠打9・大会記録保持)/内野守備パーソナルコーチ・スポーツメンタルトレーナー/現役消防士・3児のパパ。100人以上の選手と向き合ってきた現場経験から「すぐに実践できて、今日から変わる1つ」をお届けします。