メンタル守備・技術

「フライが怖い…」と震えていた子が、90分で変わった理由

「コーチ、ぼく…フライが来ると、体が動かなくなるんです」

レッスン開始15分。小学5年生のその子は、ぼくの目を見ながらそう言いました。

「みんなの前でちゃんとやりたい」という気持ちと、「来るのが怖い」という気持ちが、体の中でぶつかり合っている。その葛藤が言葉から伝わってきました。

これは技術の問題じゃない。ぼくはすぐにそう判断しました。

フライが怖い本当の理由

内野フライや外野フライへの恐怖心を持つ子は、少なくありません。特に小学生の年代では「ボールが怖い」という経験をした子が一定数います。

でも、フライが怖い子の多くは「技術が足りないから怖い」のではありません。

問題は、心の中に生まれた悪循環です。

フライが来る → 怖くて体が固まる → グローブを強く握りすぎる → 動きがぎこちなくなる → エラーする → さらに怖くなる

この繰り返しです。

技術練習をいくらしても、この心理的なサイクルを断ち切らない限り、恐怖心は消えません。むしろ「やっぱりダメだった」という経験が積み重なって、怖さが強化されていきます。

まず「心の準備」から始める

ぼくがその日最初にしたことは、グローブを握らせることではありませんでした。

その子に「今、フライへの怖さを10点満点で言うと何点?」と聞いたんです。

「……8点」

その正直な答えが、すべての出発点になりました。

次に教えたのは呼吸法です。鼻から4秒吸って、口から8秒ゆっくり吐く。これだけで、体の緊張はかなり和らぎます。消防士の訓練でも使う、シンプルだけど効果の高い方法です。

それから、フライを捕るときの基本ポジションを確認しました。「ボールの落下点に入る」という動作の意味を、言葉で丁寧に説明する。「何をすればいいか」がわかると、人は少し安心できます。

ビデオが「気づき」を生んだ

レッスンの中盤で、ぼくはその子の動きをスマホで撮影しました。

再生して見せると、その子が自分で言いました。

「……動きすぎてる」

ぼくは何も言っていません。本人が自分で気づいたんです。

「そう、動きすぎると落下点がずれる。逆に、もう少し待てると捕れるフライが増えるよ」

自分で気づいた子は、修正しようとする力が全然違います。言われてから動く子と、自分で気づいて動く子では、上達のスピードに大きな差が出ます。

段階的な練習で「成功体験」を積む

技術練習は、簡単なところから始めました。

最初は止まった状態で、ぼくが真上に投げた低いフライを捕るだけ。「捕れた!」という成功体験を、まず積み上げることが大事です。

次に少しずつ距離を延ばす。足を使う練習を加える。最後に「試合で来るような角度」のフライに挑戦する。

各ステップが終わるたびに「今、怖さ何点?」と聞きました。「8点」だった恐怖は、練習が進むにつれて「6点」「4点」と下がっていきました。

最後は「成功で終わる」ことにこだわりました。たとえ時間がかかっても、最後の一球はしっかり捕れる練習で締める。「うまくいった感覚」を体に残して帰ることで、次の練習への意欲が変わります。

90分後の変化

レッスン終了間際、その子に聞きました。

「今、怖さ何点?」

「……3点くらい」

「じゃあ、最初より5点下がったね」

その子は少し照れながら、「なんか楽になってきた」と言いました。

その夜、お母さんからメッセージが届きました。

「帰ってからチームの練習があって、フライを全部キャッチできたみたいです。本人もびっくりしていて、自信がついたと話していました」

ぼくが一番嬉しいのは、こういう瞬間です。

まとめ

フライへの恐怖は、技術の問題ではなく心の問題であることが多い。だからこそ、最初にすべきことは「共感」と「心の準備」です。

恐怖を数値化する、呼吸法で体をほぐす、自分の動きに気づかせる、成功体験を積む——この順番で進めることで、子どもの「怖い」は少しずつ「できる」に変わっていきます。

もし「うちの子、フライが苦手で…」と感じているなら、技術よりも先に「心の話」をしてみてください。

うえちコーチについて

元甲子園球児(犠打9・大会記録保持)/内野守備パーソナルコーチ・スポーツメンタルトレーナー/現役消防士・3児のパパ。100人以上の選手と向き合ってきた現場経験から「すぐに実践できて、今日から変わる1つ」をお届けします。

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