あれは、3チーム合同の守備レッスンだったときの話です。
参加した子どもたちは小学3年生から6年生まで、20人以上。それぞれ違うチームから来ていて、初めて顔を合わせる子も多い。最初はみんな少し緊張した様子でした。
練習を始めてしばらくした頃、ぼくはあることに気づきました。
子どもたちの目が、だんだんと「遠く」なっていったんです。
集中力が途切れるサイン
「集中していない」とはどういう状態か、わかりますか?
顔が下を向いている。ボールをぼーっと見ている。順番を待ちながら友達とおしゃべりしている。声がなくなる。
指導者なら誰でも経験があると思いますが、この状態になると練習の効果は一気に落ちます。技術を教えても、頭に入っていかない。
そのとき、ぼくは一度練習を止めました。
「見られていない」と感じると人は集中できない
子どもたちを集めて、こう聞いてみました。
「今、何人がちゃんとボールを見てた?」
子どもたちは顔を見合わせます。正直な子が「半分くらい…」と答えました。
ぼくはそこで気づいたことを伝えました。
「人はね、自分が見られていないと感じたとき、集中できなくなるんだよ」
これは子どもだけの話じゃありません。大人だって同じです。ぼく自身、消防士として訓練をしていたとき、「誰かに見られている」という状況では自然と集中度が上がりました。
大勢の中にいると「自分がやらなくても誰かがやる」という気持ちが生まれます。これを心理学では「社会的手抜き」と呼びます。少年野球の練習でも、普通に起きる現象です。
練習の組み方を変えた
ぼくはそこで練習の仕組みを変えることにしました。
ポイントは「全員が関わらざるを得ない状況を作る」こと。
たとえば、こんな方法を使いました。Aくんがゴロを捕ったら、Bくんがファーストに送球する。Bくんがキャッチしたら、Cくんがベースを踏む。全員の動きがつながっていないとアウトが取れないんです。
誰かが集中を切らすと、チェーンが切れる。だから自然に「ちゃんとやらなきゃ」という気持ちが生まれます。
声も出るようになりました。「こっち!」「ナイス!」「次、ゴー!」——さっきまで静かだった子どもたちが、自分から声を出し始めたんです。
転機になった「あの瞬間」
練習の途中、ぼくは一度グローブをはめて、自分でゴロを捌いてみせました。
守備の構え、一歩目の踏み出し、グローブの使い方、送球の形——全部を一連の流れで。
その瞬間、子どもたちの表情がガラッと変わりました。
目が輝いたんです。
「俺もああいう動きしたい」「あれどうやってるの?」——声が上がり始めました。
ぼくはそのとき改めて感じました。子どもは言葉より、大人の本物の動きに反応すると。
いくら口で説明しても伝わらなかったことが、一度見せるだけで一気に伝わることがある。「コーチ自身がやってみせる」ことの力は、ぼくが思っていた以上に大きかった。
小さな「感情のシフト」が練習の質を変える
技術的な練習方法を変えることは大切です。でもぼくがこのとき学んだのは、それよりも「感情のスイッチを切り替える」ことの効果の大きさでした。
「見られている」という感覚。「自分が参加している」という実感。「コーチが本気でやっている」という空気。
これらは技術とは関係ない、でも確実に練習の質を変える「感情的な要素」です。
子どもは敏感です。コーチや親の「本気度」を、言葉じゃなく空気で感じ取ります。
この日のレッスンが終わったあと、ある子が「もう終わり?もっとやりたかった」と言いました。
「もっとやりたかった」——これが、練習がうまくいった一番の証拠だとぼくは思っています。
まとめ
子どもの集中力が落ちたとき、まず疑うべきは「仕組み」です。
全員が関わらなければ進まない練習を設計すること。そしてコーチ自身が本気で動いてみせること。
それだけで、子どもの表情はガラッと変わります。
今日、グラウンドに立つあなたに、ぜひ試してみてほしいことです。
うえちコーチについて
元甲子園球児(犠打9・大会記録保持)/内野守備パーソナルコーチ・スポーツメンタルトレーナー/現役消防士・3児のパパ。100人以上の選手と向き合ってきた現場経験から「すぐに実践できて、今日から変わる1つ」をお届けします。